2025年度

第249回東アジア英語教育研究会



日時:11月29日(土)14:00-16:45(予定)
場所:南コミュニティーセンター2階会議室(〒814-8511 福岡県福岡市早良区西新6-2-92 西南学院大学東キャンパス)
参加費:500円
参加方法:参加を希望の方は、参加申込URLより、事前登録をお願いいたします。
参加申込:https://forms.gle/dqqnddzAk8ZiuWAj7

発表1:「なぜここにいるのか:教育の場における問いとキリスト教学校の使命」
伊藤 彰浩(西南学院大学)
〔要旨〕
戦後日本のキリスト教学校は、世俗化の進行、少子化による構造的危機、さらには宗教的多元化という社会変動に直面し、「建学の精神」が形骸化し、理念が空洞化する危険にさらされてきた。本発表は、そうした危機に応答する理論的枠組みとして、哲学者・池田晶子(1960–2007)の「実存哲学」を手掛かりに、キリスト教学校における使命の再確認を提案するものである。池田の思想は、死・自己・意味といった根源的な「問い」を、専門的な学術用語ではなく平易な日常言語で語りかける点に大きな特徴がある。それは、キリスト教学校が長年掲げてきた理念、すなわち「人間の尊厳」「永遠の生命」「自由と責任の涵養」と深く共鳴し合うものであり、特に言語を通して世界や他者と向き合う外国語教育の場においても重要な示唆を与える。本研究の目的は、教育組織としてのキリスト教学校の存在意義を改めて問い直し、教育現場における理念の意味を再び生きたものとして取り戻すことである。その展開は3つの段階から成り立つ。第1に、池田の思想の教育的射程を明らかにし、その哲学が学習者と教育者にどのような省察を促すかを検討する。第2に、戦後日本のキリスト教学校の軌跡をたどり、民主化、経済成長、少子化といった社会的文脈のなかで、理念がどのように受容され、また喪失の危機に直面したかを整理する。第3に、これらを踏まえ「実存的使命再確認」というモデルを提示し、理念を固定的なスローガンではなく、時代とともに問い直され続ける「生きた問い」として捉え直す試みを行う。本研究は、教育学と組織論、さらに哲学的思索を架橋することによって、理論的貢献を果たすと同時に、実践的にも具体的な示唆を与える。すなわち、カリキュラム設計、課外活動の在り方、さらには学校法人のガバナンスや自己点検・評価の場面においても、池田の思想は理念の再活性化を促す有効な資源となりうる。本研究は、キリスト教学校の使命を「問い続ける営み」として再定義することで、教育実践の新たな可能性を切り開くことを目指している。

発表2:「英語の心理動詞と項構造の習得に関わる諸要因の考察」
若芝 青(西南学院大学大学院)
〔要旨〕
英語学習者にとって、動詞がどのような項構造を持つかを習得することは重要である。本発表では、心理動詞を対象に、その項構造の習得に影響を及ぼす諸要因について検討する。先行研究では、日本人学習者には Experiencer Subject (ES) 型よりもExperiencer Object (EO) 型の方が習得が困難であることや、後者の習得が困難となる要因の一つとして、主語が対象(Theme)となる点などが挙げられている。本研究ではさらに、項の有生性、動詞の意味的性質、統語構造といった複数の要因を総合的に考察し、それらの中でどの要因が日本人学習者にとって習得上有意な役割を果たすのかを明らかにする。

発表3:「日本人英語学習者の英語のリズム習得におけるシャドーイングの有効性:ISI持続時間を指標とした分析」
松下 璃菜子(西南学院大学大学院)
〔要旨〕
本研究では、日本人英語学習者の英語リズム習得の実態を明らかにし、シャドーイング訓練の効果を検証した。英語は強勢拍リズム、日本語はモーラ拍リズムであり、この違いが日本人学習者の非強勢音節の発音を困難にしている可能性がある。実験参加者は英語母語話者1名、日本人英語学習者46名(上位群・下位群)。ISI(inter-stress interval)持続時間を事前・事後で測定した結果、学習者(特に下位群)は非強勢音節数が増えると制御が困難であったが、シャドーイング後には上位群が母語話者水準に近づいた。以上より、シャドーイングは英語リズム習得、とりわけ長いISI制御の改善に有効であることが示された。

発表4:「低頻度接辞を対象とした形態認識(Morphological Awareness)の役割」
杉安慶哉(西南学院大学 外国語学部3年)
〔要旨〕
本研究は、英語語彙習得における形態認識(Morphological Awareness: MA)の役割に注目し、特に低頻度接辞を含む語彙に対してもMAが効果的に機能するかを検討することを目的とする。従来の研究では頻度や透明性の高い接辞に対する明示的指導の効果が報告されてきたが、低頻度接辞のように形態的に複雑で意味予測が難しい語彙への応用については実証研究が不足している。Sukying(2020)が参照したBauer & Nation(1993)のワードファミリー理論では、頻度・規則性・生産性・予測可能性を基準として接辞が分類されてきたが、これらを満たさない低頻度接辞は対象から除外されてきた。したがって、この領域におけるMAの効果を検証することは、学習者の語彙習得を理論的・教育的に拡張する意義をもつ。本研究では、既存分類に含まれない低頻度接辞を対象に、中頻度語・低頻度語におけるMAの適用可能性を探り、学習者がより難解な語彙にも自律的に対応できる指導方略を模索する。今後はBritish National Corpusを用いた語彙選定と明示的指導を組み合わせた実験を計画し、短期的効果に加えて長期的な語彙定着への影響も検証する予定である。

発表5:「35(学部生発表)標準英語偏重を超えて:異文化理解を促す英語教育の実践的提案
須佐 心(西南学院大学 外国語学部3年)
〔要旨〕
近年、英語は世界各地で多様な変種が認められるようになっている。しかし教育現場では依然として特定の変種、いわゆる「標準英語」に依拠した指導が主流である。本発表では、学習指導要領や教科書の音声データを分析し、さらに標準英語に関する既存研究を批判的に検討することで、一つの変種に偏る授業の問題点を明らかにする。学習者が「正しい英語」のイメージを狭く固定化してしまう環境は、異文化理解や多様なコミュニケーションを阻害し、グローバル化が進む現代にふさわしくない。そこで本研究は、英語を単なる受験科目として教えるのではなく、言語や文化の多様性を尊重し、学習者が将来的に英語を通じて人と繋がり合うことを可能にする授業プランを提示する。多様な英語変種を取り入れることによって、学習者が異文化間の相互理解を深め、英語を「人と関わるための言語」として活用できる教育のあり方を提案する。

事務局
原 隆幸

第248回東アジア英語教育研究会


日時:9月20日(土)15:00-17:00(予定)
場所:福岡工業大学A24教室(〒811-0295 福岡県福岡市東区和白東3-30-1)
参加費:500円
参加方法:参加を希望の方は、参加申込URLより、事前登録をお願いいたします。
参加申込:https://forms.gle/z1WgmqeGquMQ8uBv9

発表1:「音大生の可能性を広げる:音楽と国際性の交わり」
中西千春(国立音楽大学)、早坂牧子(東京音楽大学)、山村薫(国立音楽大学)、久保田早紀(国立音楽大学)
〔要旨〕
音楽大学では演奏実技が教育の中心となる一方で,英語学修へのモチベーションが育ちにくいという課題がある。音大生が英語を主体的に学ぶには,「なぜ音楽家に英語が必要なのか」という目的意識の形成が重要である。本発表では,この課題への複合的なアプローチとして,音楽と英語を有機的に結びつける3つのワークショップ実践と1つの分析研究を紹介する。発表は,英語教育を専門とする教員,音楽学と英語教育を専門とする教員,ピアノ演奏・ピアノ教育・英語教育を専門とする教員,ピアノ演奏とピアノ教育を専門とする教員の4名が,各自の視点から行う。
【実践報告】
実践①:音楽と英語に共通する要素(テンポ・ジェスチャー・抑揚)に着目し,体験型ワークショップを行った。
実践②:国際的な音楽家に必要な英語力や海外で求められる姿勢を育む活動を通じ,実践的英語力を育成した。
実践③:バークリー音楽大学の学生と日本の音大生がオンラインで協働し,CLIL(内容言語統合型学習)的アプローチの教育的可能性を検討した。
【分析研究】
留学生と日本人学生によるバンド活動をPBL(課題解決型学習)と位置づけ,CoI(Community of Inquiry: Garrison et al., 2000)の理論枠組みに基づき学習プロセスを分析した。対話や自己省察,音楽を媒介とした協働的学びが,国際的な学修機会となる可能性を考察した。
最後に,これらの取り組みの成果を整理し,音楽大学における国際性育成の展望と課題を共有する。異なる専門領域を持つ教員の協働が,音楽と国際性の交わりへの考察を深め,音大生の国際的視野や学びの広がりにつながることを提起したい。

発表2:「3人の日本人児童の第二言語としての英語の統語的発達―発話コーパスを基に―」 
蒲原順子(元福岡大学)
〔要旨〕
この発表では、英語の発話コーパスに見られる日本人児童の統語発達について報告する。この発話コーパス(「小池コーパス」)はKoike(1983) が3人の児童を対象に採集したものを後にデジタル化したものである。今回の分析の目的は、日本人児童の統語発達の段階をより詳細に捉えることである。方法は、コーパス内の個々の文構造が「出現」する時期と、Koikeの記録した文構造の習得時期とを比較するというものである。Koikeは、同じ文構造が5回出現したら「習得」と捉えている。そこで、個々の文構造が初めて出現してから習得するまでにどのくらいの時間がかかっているのかを調べた。さらに、特定の動詞を含む文を時系列で追いかけそれらが、複雑な文に発達するのかどうかも調べた。結果として、文構造については新規の文構造が習得されるまでに3ヶ月程度かかるものが多かったが、ほぼ同時期に出現し習得と認められる文構造もあった。特定の動詞については、時間の経過と共に複雑な文構造が見られた。最後に、これらの結果から得られた知見が英語教育へ何らかの示唆が与えられるかどうかについても検討を加える。

事務局
原 隆幸

第247回東アジア英語教育研究会



日時:7月12日(土)15:00-17:00(予定)
場所: 福岡大学A棟 A710(〒814-0180 福岡市城南区七隈八丁目19-1)
参加費:500円
参加方法:参加を希望の方は、参加申込URLより、事前登録をお願いいたします。
参加申込:https://forms.gle/KidiLJL2iu49QT6Y9

発表1:「英語ディスカッション指導への示唆:英語会議の発話データのコーパス分析結果から」
中谷安男(法政大学)
〔要旨〕
 高校学校では「論理・表現」の授業が導入され,英語スピーチやプレゼンテーション,ディスカッション,ディベートなどアウトプット促進を推奨しています。ところが,ディスカッションに関する具体的指導法に関して、日本では十分に確立していないようです。この点に注目して、コーパスデータ分析を用い、具体的な示唆を行います。
英語のディスカッションにはフォーマルな会議で行われるものと、自由に意見を交わすインフォーマルなものがあります。この発表では、前者で使われている発話データを36の公開されている教材から集め、27,353ワードのコーパスを作成しました。これらを大規模コーパスの米語FROWNと英国語FLOBと比較検証し、meetingでよく使われる特徴語を抽出しました。それは、これまであまり注目されていなかった人称代名詞のweなどです。さらに、特徴語のクラスター分析を行い、使用頻度の高い特定の英語表現を見つけました。Communication Strategy: CSと呼ばれる、人と交渉し、互いの理解を含め、相手を説得するのに有効な発話方略です。
実は、これらは基本的な英語表現で、日本の高校生も大学生も十分活用できるものばかりです。このCSの授業への導入方法を共に考えてみましょう。

発表2:「多様な言語背景を持つ児童の日本語習得状況に関する予備調査」 
佐々木有紀(中村学園大学)、小野博(中央大学)、内田富男(明星大学)、杉本孝美(桃山学院大学)、服部圭子(近畿大学)、日高俊夫(武庫川女子大学)
〔要旨〕
1990年の入管法改正以来、日本の在留外国人の数は大幅に増加している。それに伴い、日本の公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数も増えており、その数は現在5万7千人を越える(文部科学省2023)。一方、これらの日本語指導が必要な児童の日本語習得状況の実態については解明が進んでおらず、サポートが必要な児童への対応は個々の自治体や学校の判断に委ねられているのが現状である。今後も多様な言語背景を持つ児童生徒が増加する傾向が続くことを考慮すると、多様な言語背景を持ちサポートが必要な児童の日本語習得状況を客観的に可視化し、実態に基づく対応策を提案する必要がある。本研究はその第一歩として、小野ら(1997-1998)が開発した言語テストを利用し、多様な言語背景を持つ児童を被験者として日本語の語彙力テストを行う。そして、テストの結果を日本人児童と比較し、被験者である児童の背景等を考慮して分析する。小野らの日本語力テストは、小学生14,327名・中学生8,418名・高校生18,293を対象に実施し、その結果のIRT分析によって開発されたものである。今回の調査では、小野らの日本語力テストを改めて検証し、今後、さらに多くの外国人児童を含む小学生の日本語力を測定し、外国人の児童や幼児への指導理論を構築することを目標としている。

事務局
原 隆幸

第246回東アジア英語教育研究会

会員の先生方へ

第246回の研究会の案内を致します。お忙しいことと存じますが、ご参加いただければ幸いです。
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第246回東アジア英語教育研究会

日時:5月31日(土)15:00-17:00(予定)
場所: 中村学園大学2号館8階 2801号教室(〒814-0198 福岡県福岡市城南区別府5-7-1)
参加費:500円
参加方法:参加を希望の方は、参加申込URLより、事前登録をお願いいたします。
参加申込:https://forms.gle/E3hsU8VXg9Dgejx6A

発表1:「サステナブルツーリズムと大学英語教育」
津田晶子、前嶋了二(中村学園大学)
〔要旨〕
本発表では、サステナブルツーリズムと大学英語教育の連携について探求する。前半では、観光学の教員がサステナブルツーリズムの定義、重要性、国内と海外の実践例、そして現在の課題と未来の展望について説明する。具体的な成功事例を通じて、持続可能な観光の実現に向けた取り組みを紹介する。後半では、英語教員が大学英語教育の重要性とサステナブルツーリズムにおける英語の役割について論じる。また、兵庫県、福岡県、沖縄県の日本人学生と外国人留学生がビデオ会議プラットフォームを活用して、英語でサステナブルツーリズムについて学ぶ事例について、これまでのパイロットスタディと今後のプロジェクトについて報告する。本発表を通じて、サステナブルツーリズムと英語教育の連携の可能性を探り、持続可能な社会の実現に向けた教育の役割を考察する。

本研究は、科研費24K04058「持続可能な観光振興のためのCLIL:ニーズ分析とプログラム開発」の助成を受けている。

発表2:「日本語学習者とのオンライン協働学習(COIL)が教職課程に在籍する学生に与える影響について」 
佐々木有紀(中村学園大学)
〔要旨〕
本研究では、日本の大学の教職課程に在籍する学生とスリランカの大学で日本語を学習している学生とのオンライン協働学習(COIL)について、どのような効果が期待できるのかを主に日本人学生に焦点を当てて分析する。近年、公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数の増加は顕著であり、文部科学省の調査によると日本語指導が必要な児童生徒数は過去10年で約1.8倍になり、令和3年にはその数は約5万8000人にのぼった。しかし、現在の教職課程では日本語教育関連科目は充実しているとはいいがたく、教職課程に在籍する学生たちの多くは日本語指導の経験がないまま教壇に立つことになる。このような教職課程の学生たちに、日本語を学習している外国人学生とのCOILがどのような影響を与えうる可能性があるのかを本研究では分析し、効果的なCOILプログラムの設計を提案したい。

発表3:「穏やかな気持ちでコミュニケーションするためのプログラム:実践報告と将来のCLILとしての活用サステナブルツーリズムと大学英語教育」
古村由美子(名古屋外国語大学)
〔要旨〕
本研究で焦点を当てたコミュニケーションには、「自己との対話」及び「他者との対話」という2軸が含まれる。前者では、価値観の異なる相手との葛藤場面で生じる認知に焦点をあて、それへの気づきと変容を通した感情コントロール方法の習得を目指す。他者との対話では、葛藤場面であっても、相手との建設的な相互作用を作り出すことのできるコミュニケーション力の習得を目的としている。
本プログラムは、異なる考え方を持つ人と対立した際のコミュニケーションに焦点をあてている。特に英語話者と日本語話者のコミュニケーションパターンが異なる点にも着目しているため、将来的には英語教育における異文化コミュニケーションのCLIL(内容言語統合型学習)としての活用を考えている。今回は日本語にて教育実践したが、英語教育として本プログラムを実施する場合には、ロールプレイを含む英語でのやり取りなどを通じて英語力向上を図ると共に、日本語話者と英語話者の価値観の違いから生じる可能性のある、miscommunicationに気づき、さらに感情コントロールとコミュニケーション方法についても学ぶことができる。以上の観点から、本プログラムをCLILとして英語教育に導入することの意義について考察したい。

本研究は、科学研究助成金研究C 22K02267「アンガーマネジメントを主体とするコミュニケーション教育の構築と脳科学的効果検証」の助成を受けている。

発表4:「英語ディベート教育における正課と課外活動の連携」 
井上奈良彦(九州大学)、上土井宏太(熊本大学)
〔要旨〕
本発表では、大学の英語ディベート教育における正課としての英語ディベート科目とESSなどの課外活動の連携方法について、九州大学の事例を紹介し、その意義と課題について考察する。英語ディベートは正課の授業においても、コミュニケーション活動が重視され、選択科目として開講されたり、授業の一部として実践される場合も増えてきた。英語カリキュラムの中で必修科目として設定される場合も稀にある。しかしながら、実践経験や適切な教材の不足によって導入が難しいと教員が感じる場合が多い。授業時間内に試合形式のディベートを行うことには時間的な制約もある。一方、日本では伝統的にESSなどの名称の課外活動(クラブ、サークル)が、学生の自主的な英語学習の場として機能し、ディベートやその他のスピーチ活動を日常的に練習し、地域や全国規模の組織を作り大会運営も行っていた。ただし、いくつかの要因によって、その活動は衰退しているのが現状である。そういったこれまでの経緯を振り返り、今後どのような形で正課と課外活動が連携して英語ディベート教育の普及と発展に貢献できるのかを検討する。

事務局